大倉陶園のある風景

大倉陶園のある風景 Vol.01

大倉陶園物語 Vol.01

主役である珈琲を
いちばん綺麗に そして美味しく

東京・台東区三筋 蕪木

自然素材の塗り壁だからでしょうか、店内には椅子やテーブルも深く呼吸をしているかのような、静かでいて生きた空気が。珈琲周りの道具類はもちろん、動線の設計や内装、かかるレコードもすべて、店主の蕪木祐介さんの想いで選び抜かれたものたちです。

一見すると陶器のカップが似合いそうな空間ですが、蕪木さんは、ご自分の珈琲を装う器には、白さを求めたといいます。

「珈琲が主役であることがはっきりしますから。こうしたやや暗めの空間でも、白さのおかげで主役がパッと浮かび上がってくれて。それに珈琲の色も綺麗に見えます。単純な黒ではなくワインのような赤味を帯びているのがよくわかります」。

「飲み口の繊細さも重要です。濃いめの珈琲を少量――120㏄くらいが上品だと思いますが、それをゆっくり味わおうとする時、この薄さゆえに口に入る量が自然とコントロールできるのです。これだけ華奢なのに丈夫なのもすごい。使い始めて10年経ちますが、一度も割ったことがありません」。

カップの音から感じるお客様の気配
手にした佇まいの美しさも好もしい

蕪木さんには科学への素地があり、珈琲へのアプローチでも「なぜそうなるのか」と、仮説と検証を地道に繰り返してきたとのこと。その経験値をもとに珈琲を淹れる蕪木さんの手際は無駄がなく、しかしだからといって数字がチラつくものでもなく、柔らかな間合いがあって茶道の所作を想わせます。

「味の表現には幅があって、正解はありません。淹れ方一つで様々な味わいに調整できます。珈琲という嗜好品の大切な役割として、その日、その人に寄り添う珈琲でありたいのです」。

それはまさに、一期一会の心映え。差し出された珈琲を、自然と丁寧に味わいたくなります。

「音もいいですよね。カップをソーサーに戻すとき、コツッと高い音が響きます。これは磁器特有のものだと思いますが、大倉陶園のカップでは、特に澄んだ音がしますね。カップの音は珈琲屋の原風景の一つでもあって、私たちはそこからお客様の気配――お飲みになる姿や寛いでおられる雰囲気を感じ取っているのです。音に混じってお客様の〝いい溜息〟が聞こえると、自分の珈琲が役に立っているな、と嬉しくなりますね」。

「姿といえば、カップの持ち手が小さいところも気に入っています。小さいので皆さん、指を入れずにつまんでお持ちになります。すると、背筋がスッと伸びるようでして。その手元と佇まいに品があるのも好もしいのです」。

店がある台東区三筋は、古くから製造・卸業の盛んなエリアで、蕪木さんのお店も、元は町工場だった建物。珈琲に加えてチョコレートづくりもカカオ豆の焙煎から手掛ける蕪木さんにとって、昔気質の残るものづくりの町はとても居心地がよいようです。

「本質としての味を追究していく以上、珈琲でもチョコレートでも、目が届かないものはお出しできません。そういう自分たちが使いやすく手にして心地よい道具も、おのずと職人さんにつくってもらうものが増えていきました」。

「カップも1点物の話がなくはなかったのですが、魯山人の言葉にあるように、器は〝料理のきもの〟であって、主役の珈琲が美味しくいただけることが最大の条件。その点でこのカップに敵うものがありませんし、大倉陶園さんのものづくりも、工業的というよりは職人さんの手仕事の集積ですよね。これだけ白く繊細でしかも丈夫な器を、日本の磁器として誇らしく思う気持ちもあります」。

そう語りながら微笑む蕪木さんの珈琲は、真に滋味深く、今日もお客様の息をそっと調えています。

文 吉川優子

店名
蕪木
公式URL
http://kabukiyusuke.com/
営業時間
平日:13:00 - 18:00(※金曜日のみ20時まで)
土日:10:00 - 18:00
住所
〒111-0055
東京都台東区三筋1-12-12
電話番号
03-5809-3918
アクセス
浅草線 蔵前駅A4出口より徒歩7分
大江戸線 新御徒町駅A4出口より徒歩10分
JR 浅草橋駅西口より徒歩11分

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